ジンマンのエロイカ

やはり、世評の高いディスクは手元に残しておく方がよいと思わされた一枚(いや、ディスク買ってないんだけど。すみません)。
有名曲のあまたある録音それぞれの個性を何によって感じ取るかと聞かれれば、やはりテンポだと、僕ならたいていの場合は答えるだろう。それを、こうまで耳慣れない速さでやられてしまったがゆえに、しばらくの間、僕はこの演奏を素直に楽しめなかった。ベーレンライター新版の世界初録音だか何だか知らないけど。
が、先入観を排除する努力を払ったうえであらためて聴けば、やはり名演には違いない。小気味がいい。世評に謳われる通り、考え抜かれた解釈であることは、聴けばわかる。だから、作り出された旋律にはいちいち納得できる。終楽章冒頭の弦の運びなど、もちろん例外もあるけれど。
それでいながら、明日からエロイカはこれ一枚でしか聴けなくなったなどという状況(どんな状況や)になったとすれば、僕はやはりそんな世界に住みたくはない。そして、生まれて初めてちゃんと聴き通したエロイカがこれであったとしても、もっとエロイカなエロイカを、僕は探し続けていたと思う。